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『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』を読んだ

こんにちは。
吉田悠軌さんの『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』を読了したので、思ったことを書きます。

 

昨今のホラーコンテンツブームの中、例に漏れず自分もYoutubeで関連動画を漁っていたところ『オカルトエンタメ大学』チャンネル内で吉田さんのネット怪談についての動画を拝見し興味を持っていた中で、近著である『教養としての〜』がKindle版で¥499の大セールになっていたので速攻で購入しました。

 

私のような無教養人は「教養」という言葉に弱いのですが、本書の何が教養なのかというとサブタイトルにもあるように<古事記からTikTokまで>、つまり古今東西の名作怪談が吉田さんの解説・考察とともに紹介されています。
章ごとに恐ろしくも美しい女性が描かれた挿絵があるほかはビジュアルで怖がらせてくることは全くないので、ホラーが苦手な方にもおすすめできると思います(想像力豊かな方はわかりません)。自分は直接的なホラー表現は怖くて夜トイレに行けなくなるのですが、この本は全然大丈夫でした。

 

学生の頃に夜更かししてまとめブログの洒落怖を読み漁っていたので「八尺様」「アクロバティックサラサラ(アクサラ)」「コトリバコ」「きさらぎ駅」といった馴染みのあるネット怪談も紹介されている一方、切ると祟りが起こるという実在の木についての「ホオノキの祟り」や文豪・芥川龍之介にまつわる「ドッペルゲンガー」など初めて知った怪談も多くあり勉強になりました。それらについて吉田さんの豊富な知識による解説と考察も面白かったです。

また怪談には類型があるという点も興味深かったです。本書では、それぞれ共通の特徴を持つ話が『母子』『巨女』『江戸』『禁忌』『真相』『異界』『実話』『伝染』の8章にまとめられています。

さらに類型同士にも重複する部分があり、吉田さんによれば、たとえば「八尺様」や「アクサラ」は『巨女』であると同時に、日本の代表的な妖怪であるウブメ(難産で亡くなった女性)に代表される「子殺しの母」(『母子』)の変化系ではないかとのこと。八尺様は男児を寵愛し子宮に取り込もうとする一方でアクサラは子宮と子供を失った男を憎む怪異であり、それぞれ象徴される色が白/赤と対照的でありながらも、共通して母性や女性に対する恐怖が表現されているといいます。

またモチーフでいえば「逃げる男、追う女」や「あの世とこの世の境目」も多く、例えば『古事記』におけるイザナミの話はどちらの特徴も示しているとのことです。

 

紹介されていた怪談の中でも特に印象的だったのは『禁忌』の章における「牛の首」のルーツについて。「牛の首」といえば中身のない怪談(都市伝説)の代表格ですが、吉田さんはその話がなぜ「牛の首」と呼ばれているのか?という謎を我々に投げかけます。自分にとって「牛の首」は「牛の首」であり今までその由来について疑問すら持ったことがなかったのですが、このルーツと考えられる<儀式>についての記述が大変参考になりました。

 

吉田さんの研究やフィールドワーク、および参考文献が示された文章は、さながら学術研究のようでした。上記の他にも興味深かった怪談および考察もありますが、如何せん結構な数の怪談が紹介されており全ては語り切れないため、ご興味のある方はぜひ読んでみてください。

 

今まで漠然と楽しんでいた「怪談」ですが、本書を読んだことでその裏には人を怖がらせるポイントとなる要素があること、またそれは神話から続く根源的な恐怖なのだということを知ることができました。今後はホラーコンテンツを別の視点でも楽しむことができそうです。怪談だけに限ったことではありませんが、ある事象が語られる背景には理由があり何故それが流布していったのか考えるなかで、多角的な視点を持つための知識を手に入れることこそ、まさにタイトルに謳われる「教養」と言えるのではないかと感じた一冊でした。

 

それでは!